2024年9月号|特集 90年代シティポップ

①谷村有美『PRISM』|90年代シティポップ名盤ガイド

レビュー

2024.9.2


谷村有美
『PRISM』

1990年5月12日発売


再生はこちら ▶

1. BLUEじゃいられない
2. 6月の雨
3. ようこそ愛する気持ち
4. 友達でいい
5. 黄昏のシルエット
6. シンデレラの勇気
7. ラッシュ・アワーのアダムとイヴ
8. 眠れぬ夜の恋人達
9. つばめに逢える頃に
10. ひとつぶの涙


80年代とは微妙にニュアンスの異なる新たなシティポップ感覚の具現化

 「ガールポップ」を代表する歌手/シンガー・ソングライター、谷村有美の4thアルバム。まず注目すべきは、彼女自身のソングライティング能力の高さだ。作曲だけではなく鍵盤も能くするだけあって、アルバム中半数にのぼる彼女のオリジナル曲で聴けるコードプログレッション〜メロディ展開の瑞々しさは、同時代のガールポップシンガーによるそれらから頭一つ抜けた印象を抱かせる。

 一部作曲と全編曲を担当する元PAZZの西脇辰弥の存在感も大変に大きい。洗練とガールポップならではの「元気印」が入り混じったアレンジによって、それ以前の時代=1980年代とは微妙にニュアンスの異なる新たなシティポップ感覚が具現化されている。シンセサイザー等のエレクトロニック楽器も随所で用いられているが、あくまで「彩り」程度の奥ゆかしさで、オーセンティックな生演奏を基本軸としているのも頼もしい。ホーンのアレンジメントも、豪奢でいながら清涼感のあるもので、絶妙な塩梅。

 白眉はやはり、コンピ『CITY POP GROOVY '90s -Girls & Boys-』にピックアップされた「6月の雨」だろう。シンコペーションを生かしたリズムが失恋の心の曇りを徐々に晴らしていく、プレサマーバケーションソングの傑作。1990年代シティポップをいち早く再評価したことでも知られるインターネットサークル=lightmellowbu による投票企画「90年代シティポップ名曲ランキング」でも9位を獲得した。

文/柴崎祐二